恋愛ゲーム―Platonic game―
※※※※※
―コン、コン。
はぁ・・・。めんどくせぇ・・・・。
生徒指導室にたどり着くまでにもう何度口にしたか分からない言葉を、今改めて心の中で暗唱する。
そういえば、生徒指導室(ここ)には入学式の時から世話になっている。
両耳にジャラジャラとついたピアスの数々が、生徒指導部である真からすぐさま指摘を受けたのだ。
翔はもともと、よくある中学の反抗心延長なんたらとかいう幼稚な理由からこれらの装飾品を着けている訳ではなかったので、注意されれば外そうと思っていた。
翔の通う高校は、学問、部活、実績において名を残すそれなりに有名な進学校なので、生徒のこういった身なりを正すのは、当然の事でもある。
つい先日の入学式を思い出す。
『失礼しま―』
『耳切んぞ。』
『・・外します。』
ハサミ片手に翔の前に立ちはだかっていた真は、冗談でも本当に耳のひとつやふたつを切り落としかねないオーラを噴出していたので、
さすがの翔も一歩後ずさりした。
『先生も右耳―』
言いかけて、やめた。
ただの反抗期の子供に対してのように、そんな目でオトナから見られたくなかったから。
それにこう見えて素直だし、俺。
自分で言うとイタイな・・・。
ふぅ。
心の中で一息ついて、目の前のドアを軽くノックした。
「失礼しまーす。」
―ガララッ
「真せんせぇー来たよー」
「こら、柚須。『来た』じゃなくて『来ました』でしょ。」
「・・すんません。」
ドアから席が一番近い教師―井澤沙織が、翔に苦笑いで話しかけてくる。
俺、苦手だ。この先生。
入学式の日も、真先生が俺に説教(という名の雑談)をしていた隣で、一緒に、やたらと俺に突っ掛かってきた。
別に本人は生徒に軽いノリで言っているつもりなんだろうけど、
『いいわよね、若いって。』 『こんなに着けて痛くないのー?』
とか、それはもう(例え教師であっても)初対面なのに、アンタ誰ってくらいしつこく話しかけてきたのを本気でウザイと思った。
それに、この人の話し方もカンに障る。
真先生と同期でこの学校に来た為、彼と同様生徒と最も歳の近い教師のうちの一人だけど、その為か俺たちを後輩扱いしてくる。
真先生はいい。
あんな風にチャラけてるけど、ちゃんと俺たちを“生徒”って認識して一線ひいてるのが話してて分かるから。
ていうか、今思ったら生徒指導部、新米教師ばっかじゃん。
いや、つっても二人だけだけど。
人数はもっといるし。
それに、二人が生徒指導部(ここ)に配属された意味も、なんとなく分かる。
どうせ“威厳”と“華”が欲しいとか、きっとそういう理由。
魂胆見え見え。
ま、真先生に至っては力で物言わすなんて事はまずしない。
その辺は配属ミスだったのかな、なんて。
生徒指導室御用達の俺にとっては真先生は天使みたいに見えるけどな。
いや、“天使”なんて可愛いもんじゃないか・・・
「なーにー?今度は何したのー?」
クスクス笑いながら話す井澤。
「はぁ・・ちょっと・・・」
つーか近寄んないで下さい。
香水くせぇ・・・;
ついでに、その胸元あいた服着んのヤメロ。
さっきから全否定だな、俺。
「おー柚須。遅かったなぁ。」
お前がおせぇよ!
と、ツッコミたかったが、ここは我慢ガマン。
何よりそれより、さっきから視線感じるんですけど・・・
あの、俺、なんかしました?;
「なんすか井澤先生・・・。」
「ん?いやー真くんと並ぶと君たち、兄弟みたいだなぁって思って。」
「そーか?んな似てんのか、俺たち。」
真が沙織に答える。
「んーん、雰囲気とか。ね、柚須くん。」
「・・・。」
どう反応すりゃいいんだ。
やっぱ苦手だ、この人・・・・・・。