恋愛ゲーム―Platonic game―







※※※※※








「それはそれは、お疲れ様、ユッシー。」

「もうヤだあいつ・・」

「なんでー?井澤先生って結構美人じゃん、先輩たちには人気あるらしいよ。」

「あ〜確かに。なんか出てんもんなぁ。」



『なんか』って何?!!;;


「オーラやん、オーラ。もしくはフェロモン?」

「あーそ・・」


負のオーラならバシバシ感じるんだけどな。






翔は、ついさっきまでの生徒指導室での出来事を、帰ってくるなり

絶好のネタだとばかりに喰いついてくる和俊と、本気で心配して問い詰めてくる達也に、

事細かに(井澤のあの部屋での存在意義うんぬんについて)説明していた。



「―まぁこの辺は中学の延長と思って‥…」

「でも、ショウが毛嫌いするの、なんとなく分かる。」

「っだろ?!」

「ショウって昔から苦手だもんねぇ。見た目上品中身キャピキャピ系。」

「―まず@とA順番に‥…」

「なんやねん、それ。」


和俊が笑い出す。


「―あとは二式を比較して‥…」


まぁ、うん、確かに・・・普段落ち着いて見えるのに、他の犬いたらキャンキャン吠え出すプードルって感じだあの人・・・



しかも血統書付きの。


でもさ。

「誰でも苦手だと思うけど、それ。」

「分かってないなぁ、ユッシーは。」

「?」

「そのギャップがまた『たまらん!』て奴もいるんやで、世の中には。」


さいですか・・。


「―とりあえずグラフは書‥…」

「いるわけないだろ、そんな変態。」

「ん〜俺の知り合いでおるけどなぁ。あ、でもそいつの場合はちょっとちゃうか。」

「―これで範囲は確定出来‥…」

「何が?」


一人で思い出し笑いしているトシを不審がってタツが尋ねる。


「“来る者拒まず、去る者追わず”・・?うん、そう。まさにそんなん。」


自分で納得してケラケラと笑うトシ。

と、同時にあわあわと慌て出す。



表情コロコロ変えて大変だな・・・



なんて呑気に頬杖つきながら見ていた俺の表情も、次の声で蒼白する。



「答えは4になる。」


そうでした。今は・・・


「・・・マコトセンセイ。」



数学の授業中。;


いつの間に近くまで来ていたのか、真は翔が座るすぐ隣で三人を見下ろしていた。



「随分賑やかだな。俺も混ぜろよ。」


そう言って翔を椅子から無理矢理引きはがし、代わりに真がその席に座る。



もし、今、真先生が生徒で俺が教師だったら。

すげぇ態度でけぇな、コイツ。プチッ(←キレる音)

って思うだろう。



は?という表情で翔が突っ立ってると、真は、行けよ、という仕種で教卓に向かって顎をクイと上げた。


「早く授業して下さい、翔センセ。」


ニヤニヤと悪戯っぽく笑うその顔を見ても、明らかにこの状況を愉しんでいる俺の担任。

周りで冷やかし笑い合うクラスの連中も、早くしろ、とかショウセンセー、とか言い出す始末。



「なんで俺ばっかり…」



ダメ男くん然り、うう、と泣き真似する翔を見て、教室は笑いに包まれながらも、聞き慣れたベルにより授業は終わった。










※※※※※










放課後になると、どの階も一気に騒がしくなる。

すぐに帰る者、残って笑談する者、部活に急ぐ者‥―

その中でも最前者にあたる翔はとうに帰り支度を済ませ、「待って」と慌てる達也に「遅い。」と催促していた。



あれ、俺、なんか忘れてるような・・・。




「ショウ」


ふいにタツが話しかけてくる。


「なに?」

「休み時間の話・・・」

「井澤か?」

「違うくて、その、マコちゃんの―」


生徒指導室で先生が俺に話した内容を気にしているのだろう。


・・どこまでも心配性だな、タツは。



「あー心配ねぇって。なんも言われてないから。気にすんな。」

「そ・・」


早々とまくし立てる俺に、タツはどこか腑に落ちない表情を見せながらも、小さく頷いた。

タツは、優しい。

こいつは俺の微妙な変化に、すぐ気付く。

そして、遠慮しながらもこうやって気にかけてくる。

俺が他人に心配される事を嫌うと知っていてのタツのあの態度だと、痛い程伝ってくるから。

だから俺もタツにだけは、こうやって気遣ってくれた時、素直に嬉しいと感じる。










―マコちゃんの



『トイレに行く』と言い残し教室を出て行くタツの後ろ姿を眺めながら、さっきタツが言おうとした言葉を反芻する。




―マコちゃんの、





「話…」


ぽつり、翔は呟いた。




きっと、タツは俺がはぐらかしている事に気付いてるだろう。

そして、どんな事を聞かれたのかも。




















「シズ・・・・・・」


ぽつり、また一つ呟いた翔の声は、廊下で響く生徒たちの声によって簡単に掻き消されてしまった。










2007/3/ toki


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