恋愛ゲーム―Platonic game―
「はーいみんなー席着けよー。」
―ガラガラガラッ!!
―ピシャンッッ!!!
―バンッッッ!!!!
担任の市村真が呑気にそう言うのに反して、彼の動作はひとつひとつがいちいち激しい。
さすがに既に皆慣れたが、入学当初はビビる事この上ない。
ちなみに最初は教室のドアを開ける音で、次が閉める音、
最後は彼が手に持つ“生徒指導録”が、教卓で蝿を始末するが如く打ち付けられた音、である。
「マコっちゃ〜ん。いちいちゆわんかっても皆とっくに座ってんで〜。」
ざわざわした教室に和俊の声が響いた後で、あはは、とかそーそー、等という声がする。
入学した時から真の行動に突っ込んでいたのは、和俊だけだった。
「あ、そーかそーか。んじゃぁショート始めっしな〜」
今となってはこの学校で最も親しみやすい教師、No.1である。
真がなんやかんやと話しているのをぼーっとして翔が聞いていると、後ろから「なぁなぁ」と声がかかったので翔は頬杖をついたまま首だけ後ろに向けた。
「なんだよ。」
「今日の放課後さぁ、暇ちゃう?」
こいつの関西弁にもすっかり慣れたもんだ。
「暇だけど?」
「ユッシーてな、部活どこも入ってへんかったやんな?」
「うん。」
「なになに何の話ー?」
そう言って和俊の後ろから身を乗り出して聞きたがる達也。
てか、お前、どっかの女子高生か・・・;
「お〜タッちゃんもまだ決めてなかったやんなー部活。」
「えっなに、もしかしてショウとトシくん一緒んとこ入るの?!」
「げ」
あっ
反射的に声が。
「なんやその『げ』て。失礼な奴やな。」
「だってお前と一緒にいるとうるせぇもん。」
「僕も入るー!」
「・・・・・・おい、お前ら。」
―ビクゥッ!
・・・背後に何か感じるような。
ちらっ
視線だけ向ければ、翔のすぐ後ろに超さわやか笑顔の真が両腕を組んで静かに立っていた。
いっつもこのパターン。
名簿的に俺、トシ、タツと並んでいるから、担任の冷ややかな視線を直で受けとるのは、教卓から席がまだ近い俺なんだ。
「人が話してる時はちゃんと聞こうな。」
「「「はい・・・。」」」
―キーンコーン‥…
と、同時に、SHR(ショートホームルーム)の終わりを告げるベルが鳴った。
「ショート終わり〜お前ら一限は数学だからな〜!」
スタスタとドアに向かって歩いていく真を尻目に、翔たちは目を合わせて苦笑いをする。
数学は、真の受け持つ教科だ。
次、絶対当てられる・・・;
三人の思いがシンクロした時。
「翔ー今すぐ生徒指導室来いなー。」
言い残した真は、来た時と同様、やはり激しい音を振り撒きながら去って行った。
・・・。
「っなんで俺だけ?!」
翔の声は、笑いに包まれた教室に、むなしく吸収されたのだった。