それから、私達はどうなったのかというと。



【幼なじみ。―ラクス―】



「あの人どこ行ったか、分かりますか?」


『あの人』。

シンはなぜかキラの事を『あの人』と呼ぶ。

確かに、仲が良いわけでもなく、そもそも学年からして違うので、そう呼ぶのも分かる気もするけど。

「たぶんCAIルーム・・・あの、パソコンの」

「了解」

どうしてシンがここまでしてくれるのか分からないけど、きっと私一人じゃ今頃泣いてるだけだったんだろうな。

シンの引っ張る腕が痛いけど、彼の厚意に甘えているのは自分だから、それくらい我慢しよう。




しばらくして、『CAI』と書かれた札のついている教室が見えた。

ドアの一部が透明ガラスで出来ているので、外からでも室内が見える。

シンが、入るより先にその窓から教室を覗いた。


「あ、ほんとだいる・・・・・。げっ、先輩も。」


―『げっ』って・・・。どういう意味なんだろう。

彼につられて教室を覗くと、一台のパソコンの前で話をしているカガリとキラの姿があった。

こうして見ると、自然な組み合わせって感じだ。

そして、今、そんなことを思ってしまった自分が、なんだか悲しかった。

嫉妬してるのもしれない。だって最近、二人が一緒にいるのを本当によく見かけるから。

もしかして。


違う。そんなはずない。


「でも、すごい。どうして分かったんですか?」

「・・・・最近入っていくのをよく見かけましたから。」

「へぇ・・・・・じゃ、ちょっと失礼しま〜す・・・。」


シンにしては珍しく、変に改まって静かにドアを引いた瞬間、中から声がした。


「なんで、」


カガリの声だ。


「最近あの子の事避けてるんだよ。お前と同じ中学行ってた奴に聞いたけど、前はそんなのじゃなかったって。」

直感で気付いてしまった。

明らかに、今、自分のことを話題にされている。


今までにない感情が、自分を取り巻いてく。

そして、次に聞こえてくるのはきっと、聞き慣れた彼の声。



聞きたくない。


なのに、身体はその場から動こうともしない。動いてくれない。



私を避けてる理由なんて、そんなの、聞きたくもない。



「昔、『一緒にいたくない』って言われたことあるんだ。」








「ラクスさん?」

シンが心配そうに聞いてくる。顔を上げられない。

「なに、それ・・・・・」


何のこと。


私、


私、そんなの言ってない。


「知らないよ・・・・」


―ガラッ

「失礼しまーす!」


ドアを開ける音と同時に、シンのいつもの明るい声が教室に響いた。

顔を上げると、同じように驚いてるカガリと目が合った。

キラも、こっちを見てる。

今すぐここから逃げ出したいような気持ちになった。







「何の用、かな・・・?」


沈黙を破ったのは、キラだった。

声色が、少し低い。

彼は怒っている。当然、だと思う。

さっき彼を怒らしてしまったのは、間違いなく自分なのだから。

思わず、繋いだ手に力が入る。

押し黙っていると、シンがそっと耳打ちした。


「ラクスさん、俺、行くけど後は大丈夫だよね?ごめん。」


私の返事を待たないうちにシンは部屋から出て行ってしまった。

いつの間にかカガリも消えてる。

ということは、今、この部屋にはキラと私しかいない。

『後は大丈夫だよね?』

何が大丈夫なの?全然分からない。何を話せばいいのか。


「あの、さ、」


急にキラが話しかけてきたので、私は思わずどもってしまった。

キラ、すごく困った顔をしてる。

多分、私といるのが嫌なんだ。


「さっきは・・・・・・・・・ごめん。」


思いも寄らない言葉が返ってきたので、私は訳が分からなくなる。

なんで、私何かされたかな。

謝らないといけないのは私の方なのに。


「いえ、あの・・・私の方こそすみませんでした。」


思えば、キラとこうして二人きりで話すのは久しぶりかもしれない。

キラがこの状況をどう思ってるのか分からないけれど、私はずっとこうしていたいと思うくらい、とても嬉しい。

そっとキラを見つめると、あの頃の幼さなんて少しも感じない、大人びた表情をしている。

背も、中学に入るまでは私の方が高かったのに、いつの間にか追い越されてしまった。

髪も伸びた。手も、こんなに大きかったっけ。足も私より全然大きい。


キラは、なんだか前とは違う。変わってしまった。

だけどそれは仕方のないこと。私も、前とはもう違うと思うから。


話し方。口調。

よく言われる。変だって。

自分でもよく分かってる。だけど、これは私がしたくてしてるんじゃない。

誰かに強いられてる訳でもない。

ただ、自分を隠す為にしているだけ。隠して、誰にも見られたくない。

こうしていれば、私の中のどろどろした思いとか気持ちを見られないで済む。

だから。そう思ってきた。

だけど、違う。こんなことしても、意味がないんだって気付く。

一番隠したい相手に拒絶されてしまった時、私はどうすればいいんだろう。



だったら、やめよう。もう、こんな事は。

そう思うと、安心した。





ふいに、キラが笑った。





―キーンコーンカーンコーン・・・・・


昼休みの終わりを告げるチャイムの音。


「一緒にいたいに決まってるよ・・・。」


聞こえるように言ったつもりが、目の前にキラの姿がない。

彼はもう、ドアの前まで歩いていた。


「ラクス、行かないの?」



これからは、もっと素直になろう。

自分に。彼に。もっと。


「行く。」



教室までは、あっという間だった。





【fin.】






読んで頂いて、ありがとうございましたっ!
気付くと「幼なじみ。」シリーズも増えてきました。
拍手で好きだとおっしゃって下さった方々。本当に嬉しかったです。
さて、なんか色々複雑(そうでもないか)になってきた「幼なじみ。」シリーズ。
(勝手に『シリーズ』とか言っちゃっていいんだろうか・・・;)
今後、彼らがどうなってゆくのか秋も楽しみです。(含み笑
またいずれ更新された時、読んで頂けると嬉しいなぁ・・・v


2006.4.22 秋つばさ