それから、僕達はどうなったのかというと。
【幼なじみ。―キラ2―】
『―――最悪だ。』
ラクスと会話にもならない言葉を交わして、カガリのいるCAIルームに駆け込み、
カガリの真後ろに席を陣取るなり顔を伏せてしばらく考え込んだ後、おそらく最初に発した言葉。
―本当に、最低だ。ついてない。
ラクスに酷い事を言ってしまった。
「本当に、邪魔するなら帰ってくれ!」
さっきからカガリの椅子を揺らしていたのが悪かったのか、それともパソコンの操作ミスをカガリがする度に
僕が横から口出ししていたのが悪かったのか、ついにカガリがキレた。
「どうせ、あの子の事なんだろ?だったら早く教室戻って謝ってこい!」
―『あの子』。
カガリは、なぜかラクスの事を『あの子』と呼ぶ。前まではちゃんと名前で呼んでいたのに、いつの間にか『あの子』に変わっていた。
まぁ確かにそれほど仲が良いってわけでもないし、呼び方はカガリの自由だから別に良いんだけれど。
「・・・ちょっと待って。なんで僕らがケンカしたことになってるの。」
「そうとしか見えない。・・今のキラ見てると。」
「カガリには関係ないよ。」
「関係あるよ。なんでラクスにだけそんな態度違うのか気になるし、関係ある。」
―そうなんだ。僕、そんな態度してたんだ。気付かなかった。
だったらどうして僕、こんな事でいつまでも悩んでるんだろ。
カガリには聞いて欲しい気もする。
彼女ならどんな答えを返してくれるだろうか。
「昔、『一緒にいたくない』って言われたことあるんだ。」
―不思議だ。
カガリには何でも話せる。
こんな風にラクスと僕の事を誰かに聞いてほしいなんて、今まで思ったこともなかったのに。
だからなのかな。
最近男友達とよりカガリといる時間の方が長くなった気がする。
でもそれは『友達』だからで。
同じ女の子でも、ラクスといる時とは全然違うんだって気付く。
突然振られた話題に一瞬パソコンのキーをうつ手を止めたカガリは、少しして再び手の動きを早めながら聞いてきた。
「なんだそれ。ラクスがそんな事言ったのか。」
カガリは信じられないって顔をしてる。
「いや、直接には言われてないんだけどね。聞いちゃって。」
僕は出来るだけなんでもない風を装って答える。
作り笑い。
だけど彼女にはそれって気付かれないように、ごくさりげなく。
本当は、胸に閉まってたことを誰かに言いたくて、見返りもなく聞いてほしかっただけなのかもしれない。
証拠に、もうこれ以上深く聞いて欲しくないと思っている自分がいる。
勝手だな。
「だけどそんなことラクスが言うはず・・・・・・」「失礼しまーす!」
―ガラッ
突然ドアの方から声がしたので振り返ると、そこには見慣れた姿が二人立っていた。
―ラクス。
それと、・・・・・・いつも一緒にいるあいつ。
シン・アスカ。
そのシンの後ろに隠れるように、ラクスが俯いて立っている。さっき話しかけてきてくれた時とは正反対の、とても暗い顔。
だとしたら、そんな表情をさせてしまっているのは、僕のせいだ。
ついさっき彼女に突きつけた言葉が、頭の中で反芻する。
「何の用、・・・かな?」
妙な沈黙が流れた後、破るようにして僕はシンに話しかけた。
視線が、さっきからシンとラクスの繋がれた手を捕らえている。
「アンタ――」「キラ、私終わったし帰るから。」
それまで黙ってたカガリが、それだけ言って、さっさと部屋から出て行ってしまった。
「ちょっ・・・・僕も」「アンタはそこにいて下さい。」
遮るように言われ、振り返ると、すでにシンの姿はそこにはなく、ただ途方にくれたラクスの姿だけが目に入る。
どうやらカガリが部屋を出たのと同時に、シンもその後を追いかけて行ってしまったらしい。
妙な罠にかかってしまった気がして、心の中で小さく舌打ちをした。
―だけど、今しかない。
「あの、さ、」
「は、はいっ」
突然声をかけられて驚いたのか、ラクスは困った顔をしている。
それとも、僕といるのが嫌なのかもしれない。
「さっきは・・・・・・・・・ごめん。」
なんだか恥ずかしくなって、思わず顔を背けてしまった。
『ごめん』なんて言葉口にしたの、いつ以来だろう。
そして、彼女とこうして二人きりで会話するのも、本当に久しぶりだと気付く。
「いえ、あの・・・私の方こそすみませんでした。」
「それと、」
「は、はい」
これじゃあなんだか僕、脅してるみたいじゃない。
こんなの幼馴染みって言えるのかな。
彼女の口調が僕らの距離をより遠く感じさせてるのもあるのかもしれない。
だから。
だから、なんだか悲しくなるんだ。
「その、さ。・・・・敬語?やめてほしいんだけど。」
「ごめんなさい!」
「え、いや、そういう意味じゃなくって。」
だんだん、何を伝えたいのか分からなくなってきた。
「だからさ、僕、前の方が良かったな。」
「前・・・?」
「えっと・・・ほら、前みたいな話し方。」
「あっ・・・。・・・でも、これ癖で・・・。」
「あっ、そっか。」
結局何が言いたかったのかよく分からなかったが、ふとラクスを見ると、彼女も何がどうしてこうなったのかって顔をしてる。
僕と同じようにうつむいて、そして髪を触ってる。
それを見ると、なぜか安心した。
――なんだろう、この感じ。
今、この部屋には二人きり。
相手の呼吸音も聞こえてきそうな静寂しきった昼休みの教室。
汗のかいた掌を、僕はかたくにぎりしめる。
なのに、この安心感は何だろう。
なんだろう、この感じ。
すごく、暖かい。
僕は思わず、ふっと笑ってしまった。
それを見てつられたのか、ラクスも口に手を添えて小さく笑う。
――あ。
この笑い方。
なつかしい。僕が、あの頃毎日見てた笑顔。
なんで忘れてたんだろう。こんなに近くにあったのに。
―キーンコーンカーンコーン・・・・・
昼休みの終わりを告げるチャイムの音。
僕は、鳴ったね、と言ってドアの前まで歩いてく。
「ラクス、行かないの?」
そう言うと、ラクスは小さく首を振ってから、「行く。」と答えて僕のところへかけてきた。
教室までの道のりを、二人で並んで歩いてく。
その横を何人もの生徒が駆けて行き、廊下には窓から差し込んだ光だけが残される。
いつもと変わらない、昼休みの廊下。
教室に着いたのが、やけに早く感じた。
【fin.】
幼なじみの続き、ようやく更新できました!
お待たせしていた方、長い間すみません;
時間経過は遅いですが、キラのラクスに対しての想いを
出来るだけ細かく書いたつもりです。。
ラクスバージョンもありますので、よかったらどうぞ(o^□^o)