君の側にずっといたいから。
誰にも、この場所を渡したくない。
【幼なじみ。―キラ―】
『幼馴染みっていいよね。』
なんてよく言われるけど、そんなの全然よくないと思う。
むしろ、こんな風になるんだったらお互い何も知らないまま出会いたかった。
一緒にいた時間が長すぎて、大事にしたい気持ちは強くなるけど。
それ以上に、止められなくなっている自分がいると思うと怖い。
「好き、です。」
「君・・・・」
「っフ、フレイです!フレイ・アルスター。」
「―――、あっえと・・・・・そういえばよくカガリが話してたっけ。」
「えっ」
「うん。なんか、『可愛くて妹みたいな後輩がいる』って。そっか、君だったんだ。」
「そんなこと」
「うん。ほんと、カガリが可愛がるのも分かる気がするな。」
そうだ。今度カガリと一緒に教室遊びに来なよ。大歓迎。あれ、もうこんな時間かぁ。僕そろそろ帰らないと。ごめんね、それじゃ、また明日。
「ふぅ。」
「なぁにが『可愛くて妹みたいな後輩がいるー』だ。私はそんな事言った覚えはないぞ。」
踵を返して帰ろうとすると、家の建ち並ぶ間からカガリの声が聞こえた。
「あれ、カガリ。見てたの。」
「変な言い方するな!『協力して下さい』って言い出したの、あの子なんだよ。」
どうやら、カガリは隠れて一部始終を見ていたらしい。
彼女とは家も近く親同士仲がいいので、同じ高校に入ってから自然と会話を交わす回数が増えた。
帰る時間も重なる所為もあってか、最近はいつも一緒に帰るようになっている。
それなのに、今日は何も言わず先に帰っていたカガリ。
少し疑問を抱いていたけれど、彼女のその言葉で納得する。
「珍しいね。カガリがそういうのに協力するなんて。」
「・・・お前さ。あんな態度とるから勘違いする子がいっぱいいるんじゃないのか?」
「そんなことないよ。僕、ちゃんと断るし。」
「・・・・・さっきの、明らかにはぐらかしてたよな?」
「何回も来たら、ってことだよ。」
少し前にいたカガリは、キラが追いつくのを待ってから、歩き出した。
「じゃぁ、もし何も言ってこなかったら?」
「・・・・・。それほど好きでも無かったって事なんじゃない?」
「うっわ性悪ー。」
「どこが。」
「その“何もかもどうでもいいよー”みたいなとこ!」
道に、二つの影が揺れている。
「うるさいなーほっといてよ。」
気付けば、辺りはもう薄暗い。
そういえば、さっきの子の名前何だったっけ・・・・・・
「寒・・・。」
くしゅっ
隣でカガリがくしゃみをした。
少ししてから階段にさしかかった。
長い、長い階段。
「キラさぁ。本気で人、好きになった事あるのか?」
あるよ。あるに決まってる。
「いきなり何。」
よっ。
帰り道にあるその階段を数段抜かしてのぼる度に、カガリは声を出す。
この階段をのぼらないと、家に帰れない。
「今はいいかもっ、しれないけどっ、さっ、いつか誰かにっ、とられちゃうぞ?」
「な、何の話。」
とんっとんっとん・・・・・・
「そういえばっ、こないだっ、男と歩いてるのっ、見たぞ。・・・結構仲良さそうだったなー・・」
僕より数段上にいたカガリが、ふいに立ち止まって振り返った。
「え誰・・・―」
にやり。
あっ。
よっ。
カガリがまたのぼり始める。
「まぁっ、キラがラクスをっ、好きになるの、よぉく分かるよ。彼女っ、可愛いし、優しそうだしっ」
わざとだ。カガリ絶対わざと言った。
「・・・私と違って、なっ。」
とんっ。
カガリは最後の階段を踏む。
「あ〜疲れた。」
「カガリのぼるの早すぎ。」
外灯が今にも消え入りそうに点滅している。
階段をのぼりきれば、キラの家はすぐそこだった。
「じゃぁな。あの子には、私から言っとくから。」
「何て?」
「“好きな子がいるから付き合えません”って、そのままだよ。」
「そんな事言わなくていいって。」
「だってそうでもしなきゃ、あの子ずっと勘違いしたままだろ。それにラクスも」
「それは・・・」
「いいじゃん、幼馴染みだっけ。羨ましいよ。」
「・・・・・・。」
じゃぁな、頑張れよ。また明日、学校でな。
――頑張れ、か。
これ以上、どうやって?
いくら近くにいたって、触れることも出来ないのに―――‥
いつの間にか出ていた月が、すぐに雲に隠れて見えなくなった。