君の視線の先にいるのは、いつも決まってあの子。
【幼なじみ。―カガリ―】
「だからさ、そういうことなんだ。」
「そうですか・・・好きな人いるんじゃ、仕様がないですもんね。」
キラには言うなって言われたんだが、仕方ない。
あいつは、曖昧にするところが多すぎるんだ。
「いいのか?」
「はいっ、もともと玉砕覚悟で告白したようなものですし。」
「そっ、か。」
なんで私がすまない気持ちになってくるんだろ。
毎度ながら、キラに告白していった子の後始末は疲れる。
まぁ、それに懲りずにつきあってる私も私だが。
あの日から何日かたったある日、キラに告白したフレイという少女が、私のいる教室まで相談しに尋ねてきた。
『結局キラは自分の事をどう思っているのだろう』 と。
「それにクライン先輩なら勝ち目ないですよ、私。」
・・・なんでそんなに明るく言えるんだろう。
「だから、」 「・・・・・。」
「もし、また新しい人見つかったら協力して下さいねっ!カガリ先輩がいると心強いんです、私。」
「あぁ、その時はまたな。」
「それじゃぁ、ほんとにありがとうございましたっ」
ぺこり。
小さく頭を下げてから、彼女はパタパタと走り去っていった。
・・・そんなもんなのかな。
『それほど好きでも無かったって事なんじゃない?』
以前あいつが言ってた言葉を思い出す。
けど。
なんにしても、疲れる。
「はぁぁあぁ〜・・」
「先ぱぁい、私にも協力してくださいよぉ」
「・・・・きしょい声出すな。」
一難去ってまた一難とはまさにこのこと。
降って湧いて出たような声の主は、最近やたらとまとわりついてくる奴、シンだ。
「あーひっでぇ。こぉんな可愛い後輩がわざわざ会いに来たってのに。」
何が楽しいのか、こいつはよく私のクラスに来る。
これといった用事があるわけでもないらしく、いつもはしばらく会話を交わしたら去って行く。
まぁ、弟出来たみたいで可愛いからいいけど。
「誰も頼んでないぞ?」
「先輩がいると心強いんです、私。」 「・・殴られたいのか?」
ちょうど教室の窓枠に頬杖をついてカガリを見上げていたシンは、俯いてくくっと小さく笑った。
「でも意外だなーっ」 「何が。」
「先輩って、そういう恋の協力〜とかはいかにも嫌いそうだし。らしくないっていうか、珍しいっていうか。」
それ、前にも同じような事言われた気がするぞ。
「なんでそんな事お前に言われなきゃ・・っと、ごめん、」
人の行き来することが多い昼休みの廊下。
「わっすみません、・・・ってカガリじゃない。」 「なんだ、お前か。」
「君、そんなとこ突っ立ってると危ないよー?っていうか邪魔。」 「邪魔とはなんだ、邪魔とは。ぶつかってくるお前が悪い。」
「あっ丁度いいや、ラクス知らない?ずっと捜してるんだけど・・・」 「私は見てないぞ。ずっとここにいたが。」
「そっかー・・・。」 「何、急用?」
「いや大した事じゃないんだけどね。」 「ふ〜ん。まっ、もしここ通ったらラクスに伝えておいてやるよ。」
「ありがと。助かる。じゃっ」 「ん」
「・・・知り合い?」
見ると、教室で机に脚をのせて椅子に腰掛けているシンがいた。
そこ、私の席なんだけど。
「親友。」
私も教室に入って、シンの前にある机にもたれ掛かる。
「・・ラクス・クラインか。」 「何、いきなり。」
突然のシンの言葉にドキリとする。
「いや、有名でしょ、クライン先輩?かっわいいよなー。」
『かわいい』。 私も、そう思う。
なんだか胸のあたりが痛い。
「確か、キラ・ヤマトって人と付き合ってるっていう噂聞いた事あんだけど。」
「今のが、キラだよ。」
・・・・・・。
「えぇ?!あの人?!」 「うっさ。」
「えぇーそっかあの人が・・・・・そうなんだ・・・ふぅん。」
「何なんだよ、さっきから。ちなみに、あいつら付き合ってないぞ。誤解してる奴いっぱいいるけど。」
「知ってる。俺、ラクスさんと仲いいもん。」
「なんだ知ってんのかよ。ってか、ラクスと知り合いなんだ。」
「でもキラって人は今日初めて見ました。」 「あ、じゃぁもしかしてよくラクスの隣歩いてる奴って、シン?」
「そうですよ。」 「ふうん。」
「・・・聞きたくないですか?」 「何を」
「なんでラクスさんと仲いいのか。」 「・・・どーでもいいよ。」
嘘。本当は、すごく気にしてる。
キラの好きな子が、どんな子なのか知りたい。
でも聞いたらきっと、シンにばれる。
シン、勘だけは妙にするどい奴だから。
あいつを好きな事、誰にも知られたくない。
「嘘、ほんとはすっごく聞きたいんでしょ。ラクス・クラインのこと。」
「なっ・・」 「不安そうな顔してるし。」
分かりやすい人ですね。
シンが笑う。
「そんな顔した覚えは―」
キーンコーンカーンコーン‥・・・…―
昼休みの終わりを告げるチャイムの音。
「やっべぇ俺、次移動だった!」
急げ急げ〜
シンはわざとらしく騒ぎながら、教室を出て行く。
「ちょ・・・・シン!!」
慌ててシンを追いかけて教室を飛び出し、まだ遠くない彼の背中に向かって呼びかけた。
「あ、俺一応言っときますけどー協力とかそういうの大っ嫌いですからー」
バタバタと廊下を走りながら、シンは振り向きもしないで答えた。
「な・・何だよ、あいつ。」
取り残された私は、ただ呆然と教室の前で突っ立っていた。
よりによって、あいつに。
明日から楽しそうに笑っては自分をからかうシンの姿を想像して、彼が走り去った後の廊下をしばらく見つめていた。