はやく行かなくちゃ―――
貴方を、迎えに―――
*orgel*
「ごほっ!ごほ!」
『ごふっ』という液体混じりの音と共に、少女はその美しい髪をなびかせながら、身体をゆっくりと倒した。
「も・・・・・・時間・・・切れ・・・・・?・・・・」
口からは赤い液体が流れては落ち、白い砂地に大きな染みを作っていく。
か弱い少女の嗚咽混じりの声は、誰もいない夜の公園にすぐ吸収され、消えていった。
「迎・・・えに、来・・・・・・・のに・・っ!あと・・・少・・・・なの・・・・・にっ・・・!」
―苦しい‥…―
入り口の方から誰かの足音が聞こえてくる。
「・・・・・ユっ!」
懐かしい声。
見慣れた姿が眼に入ると、少女は安堵のため息をついた。
―お兄ちゃんだ‥…―
少年は公園で倒れている少女の元へと駆け寄り、跪いて苦しそうにしている義妹を抱きかかえた。
「マユ!どうしたんだよ一体?!病院はっ??!」
少女は、既に血と汗でいっぱいの身体をゆっくりとおこし、涙混じりで少年を見やった。
「えへへ・・・抜けてきちゃ・・・・・た・・・・」
「どうしてっ・・・そんな馬鹿なこと!!」
「こ、れ・・・」
少女がぎこちなく右腕を上げたその手の中には、四角い小さな箱が収まっていた。
少女はその箱についているネジを回す。
「オルゴール?」
「お兄ちゃん・・には、ちょっと・・・似合わないかも・・ね・・・。」
ふふっ
今にも壊れてしまいそうなその声に合わせるように、オルゴールからは“HAPPY BIRTHDAY”が流れてきた。
「・・・ッピバー・・・・デイ・・・・・・・」
メロディーに沿って、歌声が響く。
「ハッピ・・・・・・・・・・・・トゥー・・ユー・・・・」
それは途切れ途切れであったが、暗くて静かな公園に、その細すぎる声はよく響いた。
歌い終わると少女は、弱い動きで両腕を賢明に伸ばし、少年の額を自分の額に寄せた。
“誕生日おめでとう”
「ありがとう、マユ・・・。」
もう聞こえてはこない声に向けて、少年は静かに微笑んだ。
少女はそっと眼を閉じて、それが開けられる事は二度となかった―――
「なに、これ・・・・・・」
薄いノートを持つ少女の顔が、みるみる青ざめていく。
「シンってばいつもこんな事考えてたの・・・・・・」
まぁ確かに今日は彼の誕生日だけども。だけど・・・
「いくら私でも、っていうか、私じゃなくてもひくよ?!」
しかも・・義妹て!!こ、細かい設定・・・・・
あれこれ考えてるうりに、後ろからシュンッというドアの開く音がした。
「「あっ・・・・」」
二人の声が重なり、彼の視線が私の手元へいく。
彼の顔がみるみるうちに赤くなっていくのを、薄暗い部屋の中でもはっきりと分かった。
(見られて困るもんなら、こんなとこに堂々と置くもんじゃないよ・・・シンくん。)
次の瞬間。
「ちょっ・・み、見るなぁーーーっ!!!」
ってもう見てますけど。
「ご、ごめんっ」
それでも怒られると怖いから、とりあえず素直に謝っとく。
私から勢いよくノートを奪い取った彼は、両手で守るようにしてそれを持っている。
「「・・・・・・」」
沈黙。
「「・・・・・・・・・・・・」」
沈黙沈黙。
き、気まずい・・・えぇい!
「へ、へぇぇ〜シンってばそんな趣味あるんだね。ビックリしちゃったよ。ところでその“マユ”って子―」
「うっさい!出てけ!!」
見ると、さっきまでの態度とはうって変わって、今度は本当に怒ってるみたいだった。
「な、なによ・・・」
そもそもシンの方から『大事な話がある』って言われたからここに来たのに。
それで待ってもシンが出てくる気配ないから、先に部屋に入って。
机の上にさも見てくれといわんばかりにノートが広げてあって。
そしたら、そのノートの間から写真が落ちてきて。
写ってたのは幼い頃のシンともう一人。
・・・その子、私に似てたんだもん。
気になるじゃない!!
シュンッという音と共にバタバタと駆けていく足音が聞こえた。
残された部屋で一人佇んでいるシンは、右手で乱暴に髪を掻きあげた。
「だって・・・これは・・マユが」
マユが書いた、幼い頃に・・・
二人が当たり前に一緒だった頃
まだ、君が俺の妹だった時、君が書いたもの・・・だから
「言えるわけないじゃんか。」
記憶の失った君に、俺が君のお兄さんだなんて。
そんなこと、やっぱり言えない―――言えるわけない。
しばらくしてシンは、ノートから一枚の写真が消えているのに気がついた。
本格的に戦争が始まってハイネと共にミネルバに流れてきたマユ。
だけどマユには幼少の頃の記憶がない
っていう設定です。
この話はマユがミネルバ配属されてからだいぶたってます。
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